クリニックの開業規制について

クリニックの開業を目指す先生方にとって、歴史的な転換点となる出来事があります。これまでは比較的自由だった開業地の選定に、2027年以降からは変化が起こる可能性があるためです。

医師の地域偏在という課題を解消するため、国が従来の届出制から事前調整型へと大きく舵を切るものです。本記事では、変化の背景と具体的な内容を分かりやすく解説し、開業規制についてまとめました。

なぜ今、開業に制限が設けられるのか

制度改革の背景には、大都市と地方の間で深刻化する「医師の偏在」問題があります。特に、東京などの都市部に医師が集中する一方、地方では医師不足が続き、地域によっては必要な医療を受けられない事態も生じています。

医療格差の是正は、国民皆保険制度を維持するために避けて通れない課題であり、国は政策的な介入によって医師の地域的なバランスを整えようとしているのです。この変更を理解することは、今後の事業計画を立てる上で重要となります。

参照元：厚生労働省「今後の医師偏在対策について」（https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001270665.pdf）

多数区域と少数区域について

新たな制度では、全国の二次医療圏が「外来医師多数区域」と「医師少数区域」に分けられます。それぞれの区域で開業を目指す場合、求められる対応は大きく異なります。

外来医師多数区域での開業

医師が充足していると判断されたこの区域で新規開業する場合、開設予定の6ヶ月前に行政へ届け出た上で、「協議の場」への参加が義務付けられます。この場では、地域に不足している在宅医療や夜間・休日診療といった機能を担えるかが主な論点となります。

もし、これらの要請に応じずに開業を進めると、保険医療機関の指定期間が通常より短縮されるといった措置が取られる可能性があり、これは事実上のペナルティとして機能します。

医師少数区域での開業支援

一方で、医師が不足している区域での開業は、手厚い支援策によって積極的に後押しされます。具体的には、施設や設備の整備費用に対する補助金、通常より有利な条件での融資制度などが用意されています。

さらに、一定期間の勤務経験が将来のキャリアアップに繋がる「医師少数区域経験認定医師」制度も創設され、経済的なメリットだけでなく、キャリア形成の観点からも地方での開業が魅力的な選択肢となるよう設計されています。

新制度がもたらす影響

精度の変更による開業制限は、地域医療の質向上というメリットをもたらす可能性があります。都市部では、在宅医療などこれまで手薄だったサービスが充実し、地方では、支援策によって新たなクリニックが生まれ、医療体制の維持・強化が期待できるでしょう。過当競争が緩和され、既存の医療機関の経営が安定することも、地域にとってはプラスに働くかもしれません。

しかし、開業を目指す医師にとっては、行政との協議が必要になることで開業プロセスが複雑化し、事業計画の不確実性が増すことは否定できません。また、多数区域では収益性の低い機能の提供を求められたり、少数区域では支援策だけではカバーしきれない経営リスクに直面したりする可能性も考慮する必要があります。

開業規制を踏まえてアクションを

クリニック開業を取り巻く環境が大きく変わる今、成功の鍵は「地域に真に求められる医療は何か」という原点に立ち返り、それを事業戦略に落とし込むことです。規制を単なる障壁と捉えるのではなく、自院の価値を高める好機と捉える視点が、これからの開業医には求められます。

都道府県が公表する「外来医療計画」を読み、どの地域でどのような医療が求められているかを正確に把握しましょう。その上で、開業候補地に実際に足を運び、データだけでは分からない地域のニーズを肌で感じ取る「診療圏調査」が、これまで以上に重要となります。

これからの開業医には、優れた臨床能力に加え、地域の課題を読み解く情報収集力、行政や地域と協働するコミュニケーション能力、時代の変化に柔軟に対応することが不可欠です。

自分だけで行うことも可能ですが、プロの助けを借りることでよりスムーズに開業を進められることができるのは間違いありません。悩んだ際は、クリニック開業を手掛けるコンサルへの相談を行ってみてください。